2025年02月16日

メガネを外すと度が進むって本当ですか

 小学生のときから視力の低下が始まった。
 それでも黒板の文字は見えたから何とかなったが、受験勉強やらテスト勉強やらに追われる高校生になると、黒板も友達の顔も「ボヤ〜」と霞み、メガネを作らざるを得なかった。
 昭和50年代末だったろうか。最初のメガネは3万円ぐらいだった気がする。眼科に勤める母に連れられて、「メガネ作りの達人」がいるという店に行った。
 このころ、信じられていた噂に「メガネは常時掛けていないと度が進む」というものがあった。つまり、掛けたり外したりを繰り返すことによって、視力が悪化すると信じている人がいたのだ。子ども心にも「ホントかよ」との思いがあり、眼科医に質問すると「必要なときに掛ければいい」との答えが返ってきた。これで気が軽くなった。見た目を気にして、授業以外では掛けなかったけれど、本当に視力が落ちていくのかを検証してみたい。
 大学生の頃は、人生で一番視力が悪かった。4月には1号館で健康診断を受けるのだが、まともに視力検査を受けたら時間がかかって面倒なことになる。順番が来る前に両目を剥いて、0.1の大きな輪っかが開いている方向をおぼえるとスムーズだ。3つあるうちの左は、輪の左に切れ目がある。逆に右は、輪の右が切れている。中央は、下に切れ目があったので、視力測定のときに片眼を隠しても「左」「下」「右」と答えられる。
 眼科で測ったときは、0.07とか0.04だったので、ズルをするのは簡単だった。学生時代に作ったメガネは30代まで使ったが、壊れて廃棄処分となり、この世に残っていない。黒枠の2万円程度のものだったと記憶している。
 海外旅行にはまった20代から40代を支えたメガネは、サングラスであった。

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 ケースにはアルファベットで「ソニア・リキエル」と書いてあるので、3〜4万円したかもしれない。フレームが大きいことから丸顔をほっそり見せる効果があり、非常に気に入っていた。だが、今持っているメガネの中では、一番度が強いことようだ。
 この頃から、目の調子がいいときはコンタクトレンズを装着するようになった。自転車に乗るとき、風の強いときはメガネに頼らざるを得ないため、色のないレンズも必要だった。サングラスよりも少し度が弱く、軽い素材のものを選ぶ。

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 これも度が強めで、15m先までよく見えるから、運転免許の更新には活躍する。普段はまったく運転しないけれど。
 40代になると老眼が始まり、手元が見えなくなってくる。そこで、コンタクトの度数を下げたのだが、徐々にドライアイが深刻化し、ある日、強い痛みに見舞われレンズを外さざるを得なくなった。
「ひー、本が読めるメガネがないよ。急いで作らないと!」
 あわててメガネ屋に行き、老眼対応のものを調達した。あまりに急いでいたので、フレームは適当によさげなものをチョイスした。

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 よく見たら、これもソニア・リキエルではないか。
 ひょっとして、無意識に選んでしまうのかもしれない。
 加齢とともに、老眼は容赦なく進んでいく。作って間もないソニア・リキエルでも本が読みづらくなり、40代半ばにまた新しいメガネを作った。

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 こちらは「ラインアート」というフレームで、5万円近くもした代物だ。気に入って50代半ばまでの10年間掛け続けたけれど、さらに老眼が進み、パソコンの画面が見づらくなった。
「高いメガネを作っても、すぐに合わなくなるから、これからは安いヤツでいいや〜」
 ようやく悟りを開いた気分になる。
 最近作ったメガネは、PC画面に特化したものだ。両目の視力差があるため、PC画面を見ていると目が疲れて仕方ない。両目が同じ程度になるよう矯正し、50%のブルーライトカットレンズを使った。

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 何とお値段は9900円!
 こんなにお得に作れるのだと、初めて知った。
 左のレンズは度が入っていない。右の視力が悪いので、こちらだけ下から2番目となる低い度数のレンズを入れてもらったら、入力作業がスイスイ進む。快適快適! しかし、遠くは見えない。3m先をクリアーに見るためには、メガネを外した方がいいという矛盾。何か変だ……。
 10代のときには予測できなかったけれど、50代になった今は、若い頃より視力がアップしている。
つまり、メガネは常時掛けていなくても問題ないという医師の説明は正しかったのだ。まっすぐな道では、なるべく遠くを見るようにするなど、陰で涙ぐましい努力もしてきた成果もあるかもしれないけれど、柔軟に考えてよいことが証明された。
 これらのメガネはリビングの引き出しに収納されている。それぞれ異なる役割を持つメガネだらけだ。
 また度が合わなくなり、新しいものを作ったら「メガネ大臣」になってしまうかな。。

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2025年01月05日

出光美術館から東京會舘への黄金ルート

 年末の大掃除をしていたら、出光美術館のリールレットを見つけた。

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「おっ、こんなところに!」
 11月末に名宝を見に行き、ブログにアップしようと思っていた。でも、武蔵野観音霊場のラスト5カ所の巡礼に行ったり、コロナに罹患していたりするうちに、コロッと忘れていた。きらびやかで目の保養をするにはおススメの展示だったのに、会期終了後に発掘するとは何という不覚!
 しかも、この展示を最後に出光美術館は長期の改修工事に入るのだとか。タイミングは悪いが、せっかくのお宝なのでアップしておきたい。
「えーと、写真、写真」
 記憶は心もとなくても、写真でしっかり記録しているはず。スマホの画像を引っ張り出して、ザックザクと記憶を掘り起こした。

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 11月の最終金曜日だったはずだ。この日は早めに退勤し、仕事が休みの娘と美術館前に17時、という約束で待ち合わせた。毎週金曜日は20時まで開館している。夜の方が空いているから落ち着いて鑑賞できそうな気がした。
事前情報として娘から、「隣の帝国劇場でSHOCKが上演されているんだけど、大千穐楽だから17時はすごい人出になるよ」と聞かされ姿勢を正す。SHOCKといえば堂本光一氏。本当に本当のラストであれば多数のファンが駆け付け、美術館の前まであふれてしまうかもしれない。「見つけられなかったら、エレベーターで9階まで行って、そっちで会おう」ということにして当日を迎えた。
「なんだ、余裕で通れるじゃん」
 予想通り帝国劇場前では、女性ファンが何重もの人垣を作って待機していたが、歩道が広いので通行の妨げにはならない。娘曰く、堂本ファンはマナーのよさで知られているのだとか。何の支障もなく待ち合わせ場所で合流でき、美術館に近づいていった。
 トプカプ宮殿博物館とは、1467年に建てられ、1856年まではたオスマン帝国・スルタンの居城として活用されていたそうだ。トルコ共和国が成立した翌年の1924年に博物館として開館し、人気スポットとして世界中からたくさんの来館者を迎えているという。
 展示は、宮殿の宝物、中国陶磁の名品、日本陶磁の名品、トルコのタイル・陶器の4部構成となっているが、何といっても見どころは、冒頭の宮殿の宝物であろう。スルタンの居城として政務をつかさどっていた場所には、たくさんの宝石や貴金属が集められていた。その数や豪華さは、オスマン帝国の繁栄の象徴でもあるらしい。

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 下地となる黒や金を基調に、ルビーの赤、エメラルドの緑、ターコイズの青がバランスよく配置されているところに「美」を感じる。何十年、何百年経っても、華麗な輝きをとどめておいてほしい。

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 日本陶磁の名品は、17世紀半ばに備前の陶磁器が海外に輸出されるようになった古伊万里が中心である。

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 トプカプ宮殿では室内装飾というより、「用の美」を備えた器として、愛用されたらしい。サブタイトルの「東西交流の証」にはそれなりの重みがあり、焼き物が親善大使としての役割を果たしていたことに思いを馳せる。ひいきの柿右衛門も展示されており、スルタンの気持ちになって「このお皿に載せるのは、ちょっと焦げ目のついたロールパン」と決めつけた。
 すべてを鑑賞するとちょうど1時間が経過していた。この日のディナーは東京會舘ロッシニテラスに予約を入れた。久しぶりの豪華な外食に気持ちが弾み、ステップを踏んで踊り出したくなる。

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 キャンセルがあったとの理由で店内は静かだった。話しかけてきたウエイターと会話をしたとき、2カ月前に読んだ辻村深月さんの著書『東京會舘とわたし』を思い出し、あの本は人間ドラマが丁寧に描かれていてよかったと伝えた。ウエイターはその手の話題に慣れているようだった。どこからか、辻村さんの本を持ってきて、話を膨らませようと試みた。
「こちらですよね」
「はいそうです」
「どの作品が好きですか」
「直木賞の、小説家と父の話が一番いいと思いました」
「ああ、あれ。わかります!」
 彼は文学に興味があるように見えないのだが、一通りは読んでいるのだろう。直木賞について、他の作品についての余談を織り交ぜて、会話を引き継いだ。
「辻村先生、ときどき、こちらにもいらっしゃるんです」
「ええっ、そうなんですか」
 彼は著者の写真を持ってきて、「こちらの方がさりげなく座っていらっしゃるかもしれませんよ」といたずらっぽく笑った。実は目がゴロゴロして違和感があったので、夕食前にコンタクトレンズを外してしまったこともあり、辻村さんの写真が見えなかった。まあいいや。
 デザートはマロンシャンテリー。和栗を使った期間限定バージョンだという。

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「うーん、美味しいっ」
 東京會舘を選んだ理由のひとつにマロンシャンテリーがある。高貴な見た目、口どけのよさ、しつこくない上品な甘さ等々、このケーキを愛する理由には事欠かない。日本だけでなく、外国でも受け入れられるに違いない。自信を持って、トプカプ宮殿のスルタンに献上されるレベルのスイーツだと思うのだが。
「てことは、柿右衛門のお皿に載るべきものは、ロールパンじゃなくてマロンシャンテリーか」
 ああ、とても似合いそう。
 最強の組み合わせに気づき、ひとりで小さく「ふふふ」と笑った。
 さて、次に東京會舘に来るチャンスがあるときに、出光美術館は再開しているだろうか。
 できれば、美を鑑賞したあと、食を堪能という贅沢コースを楽しみたい。

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2024年11月25日

うれしい草津みやげ

 片岡鶴太郎氏がお茶の間に出てきたのは、私が高校生のときだ。
 正直いって苦手なタイプ。
 テレビに映ったら、目を逸らすかスイッチオフにすることが多かった。
 見方が変わったのは大学時代から。
 「徹子の部屋」を見た友人の話を聞いて、考え方に変化が生まれた。
 「ゲストが鶴太郎だったんだけど、子どものときはいじめにあっていたらしいよ。消しゴムにシャーペンの芯が刺さっていて、字を消したいのにノートが汚れちゃうって具合に」
 「ふうん」
 「他にも……」
 友人の話はしばらく続くのだが、残念なことに、消しゴムのエピソードしかおぼえていない。
 「いつも人を笑わせる側の鶴太郎が、涙を流しながら辛かったと言ってたよ。徹子も聞きながら泣いていた。ひどい話だよね」
 そうだったのか。
 いじめを乗り越えて芸能界に入るガッツがあるのだと、鶴太郎氏を見直した瞬間だった。
 その後、バラエティや映画、ドラマ等で活躍していたが、画家としての鶴太郎氏が一番よいのではと感じている。
 絵が柔らかくて、ささくれた心を和ませるエッセンスが含まれている。
 仕事のストレス、家庭のせわしなさ、時間に追われる日常生活で消耗しているとき、彼の絵を見ると気持ちが楽になるのはなぜだろう。
 誰にも言ったことがなかったのに、草津に出かけた友人には伝わっていたようだ。
「草津で鶴太郎美術館に行ったんだけど、ポストカードを買ってきたよ!」
「えっ、ホント?」
 ちょうど、私の誕生日が近かったせいだろう。
 めでたい?

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 この構図も好きだ。

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 ありがたくちょうだいした。
 草津に行く予定はない。。
 美術館は伊万里にもあるらしいので、こちらには一度ぐらい行ってみたい。
 やはり本物を見ないとね。

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2024年11月04日

ドレメ通りのフレンチ「アルカション」

 私はドレスが大好き。
 以前から、目黒にある杉野学園衣裳博物館に行きたいと思っていたが、営利目的の施設ではないため開館日が少なく、都合が合わずに足踏みしていた。そのうち、すっかり忘れてしまい、薄情というより、行きたいときに行けないと覚えていられない年齢になったのだと気づいた。
 幸い、よきライバル……なのかどうかはわからないけれど、同じ服飾系である文化服装学院の博物館に行く機会があり、展示品のクォリティに感心して、「杉野さんにも行かなくちゃ」と思い出したわけだ。
 平日は仕事で行かれず、土日は基本的に閉館だそうだが、電話で聞いてみたら、たまに開館する日があるという。運のよい土曜日を選び、気の置けない友人と出かけてきた。

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 中は撮影禁止なので、素晴らしい展示品をお見せすることはできないが、目の保養になることは間違いない。洋装だけでなく、十二単等の和装も見ることができる。
 十二単とは、十二枚着ているわけではなく、十二分に着ているという意味なのだとか。そりゃ、もうそれ以上羽織る必要ないでしょうね。
 目黒で生まれた杉野学園の歴史は古く、1926年の創立当初は、ドレスメーカー女学院という名だったそうだ。それで「ドレメ」との略称になり、学校前の道は「ドレメ通り」と呼ばれて今に至る。地元からも愛されていることが、地図を見ただけでわかる。

 さて、見学自体は40〜50分ほどで終わるので、そのあとのランチが大事だ。
 目黒には美味しくてオシャレな店が多いけれど、この博物館の正面にあるフレンチ、アルカションも粋で垢抜けており、リピート確実なお店であったと紹介しておこう。
 テーブルクロスの赤が印象的だ。

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 お料理はどれも口当たりがよくて、ていねいな作業で作られたことが分かった。

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 特に気に入ったのが、ウロコまで食べられる魚料理である。

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 たしか真鯛だったような……。不快でしかないウロコが、軽くて口の中で弾けるフレークに生まれ変わり、マラカスのような音で楽しませてくれるとは驚きだ。
 食器もステキだった。
 デザートとともに運ばれてきたコーヒーのカップや、砂糖入れが見惚れてしまう。

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 もちろん、クリームブリュレそのものも満足の味で、目も舌も胃も喜ぶ一日となった。

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 店をチョイスしてくれた友人には、大きな感謝を伝えたい。
 もっと目黒に行かなくちゃ。

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2024年08月18日

寿司の美登利で会いましょう

 7〜8年前に、大学のときの後輩と飲みに行ったことがある。
 コロナ禍を経て、先日久々に共通の友人の会で顔を合わせた。でも、席が離れていて、簡単な会話と最後に駅まで歩いただけで終わってしまった。
 「笹木さん、ゆっくり話せなかったから、今度ランチしませんか」
 彼女からのLINEを見て、「そこまで仲良くなかったよね?」と軽い違和感をおぼえた。でも、銀座にある寿司の美登利の予約が取れたのに、一緒に行くはずの人が予定変更で困っていると続き、「なるほど」と納得した。
 寿司か……。暑いときには最高だな。
 警戒心よりも食欲が勝利した瞬間である。手が勝手に承諾の返事を打ち始めた。
 「梅丘に本店があるお寿司屋さんだよね。行きたい、行きたい」
 「やった〜、ぜひぜひ」
 そんなわけで、ウキウキと当日を迎えた。
 まずはカニみそサラダと茶碗蒸しから食べ始めた。

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 飲み物でちょっと悩む。お盆休み中に飲みすぎて、胃腸の具合がよろしくないので、ジュースのようなシードルに決めた。さっぱりしていて正解!
 「来た来た」

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 お見事なにぎりが目の前にやってきた。
 いただきながら、何人もの共通の友人の話をしていたのだが、一人の女性が亡くなっていたと知りガッカリした。詳細についてはお互いにわからず、「まだ若いのにね」と思い出をたどるばかりだ。ご冥福をお祈りしたい。
 以前から、ソフトな話し方をして、決して怒ることのない後輩の性質は変わっていない。どうも、カウンセラーの資格もお持ちのようだから、そちらの方面に進んだ方が安定感を生かせて、世のため人のためになるような気もしたのだが。彼女の人生だから余計なことであろう。
 「アナゴがすごいですね」
 「ご立派だし、美味しい〜」
 舌鼓を打ちながら、すべてを平らげた。ごちそうさまでした。
 「お茶しません?」
 「いいねえ」
 ちょうど、スタバが空いていた。ここに来たら迷わずフラペチーノだ。ちょうどパイナップルが登場したはず、とニンマリした。

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 これまで彼女がしていた仕事で、お寺の事務職というものがあった。
 「お寺はいいよね。秩父の観音霊場は全部回ったよ」
 「えー、知りませんでした。私が働いていたお寺は○○宗で、ありがたいお経があるんですよ」
 そこでハタと気づく。これは宗教の勧誘ではないかと。
 正直言って、自分に他人を惹きつける魅力はほとんどない。しかし、マルチ商法やキャッチセールス、宗教団体にはよく声を掛けられる。応じてもらえそうなタイプに見えるからだ。誘われたら「興味がない」と言って断り、二度と一緒に出掛けないようにしなくてはならないと身構えた。
 「秘書の仕事もしましたけれど、コロナで事業が整理され、別の職種に変わっちゃいました」
 お寺の話題は終わり、仕事遍歴の続きに戻った。おやおや。どうやら勧誘ではなかったらしい。
 「今日はゆっくり話せてよかった。また会おうね」
 「はい! 美味しいものを食べに行きましょう」
 手を振って別れ、帰路につく。
 実際のところ、彼女が何を考えていたかはわからないけれど、会えてよかったとは思う。
 もし、私が過去の友人に同じことをしたら、怪しいと疑われることも十分予想できた。
 だから、Facebookで懐かしい人を探し、友達リクエストを送っても無駄ってことなのね。
 2日前の状況を思い出し、人のことは言えないとため息をついた。
 でも、ご縁があれば、どこかでつながるはず。
 また、後輩とお出かけしちゃおうかしら。

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2024年07月31日

好きです 名言

 職場で、週めくりのカレンダーを使っている先生がいる。
 一週間の日と曜日、それに著名人の名言が書かれていて、毎週のぞいてしまう。

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「今週の言葉も素晴らしいですね。不可能の対義語は挑戦なんだ〜」
 私が大いに興味を示したせいか、同じものをプレゼントされ、ビックリした。
 どうやら、ダイソーで買えるものらしい。
 せっかくのご厚意なので、ありがたくいただいた。
 家に持ち帰り、居間の壁に下げて、家族みんなで確認する。なんだか、すがすがしい。
 2024年も7カ月過ぎてしまったが、特に気に入った名言は次の3つである。
 セント・ジェルジ・アルベルト
「発見とは、人と同じものを見ながら、人の気づかないものをみつけることである」

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 うんうん、そうだよね。誰にでもできるわけじゃないでしょう。

 デール・カーネギー
「笑顔は一ドルの元手もいらず、百万の価値を生み出す」

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 はい、日本にも、笑う門には福来たるってことわざがあるから、同じ同じ。

 ラ・フォンテーヌ
「急いでもダメだ。大切なのは間に合うように始めることだ」

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 締め切り間際に駆け込むパターンの多い私には、よい教訓となるに違いない。心して受け止めます!
 名言のインパクトは絶大だ。
 私もどこかに残せるといいな。

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2024年06月23日

国立競技場でランチするならココ!

 年に数回、午前も午後も職場外で会議という日がある。
 1時間ぐらいで次の会議が始まればいいのだが、間の悪いことに、3時間以上空いてしまうのが常だ。ゆっくりランチをとり、カフェに移動してお茶を飲むとちょうどいいかな〜というところだ。

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 どうせ時間があるなら、品数の多いランチに挑戦することにした。
 目指すは、三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア内のレストラン・エボルタである。ここは国立競技場駅に近いため、道中の郵便ポストが赤ではなく、メダルの色になっていた。

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「クスッ、おもしろーい」
 一人でも入りやすいし、明るい雰囲気で居心地がよい。
 まずはサラダ。

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 次に魚料理。メカジキにイチジクのソースがかかっていた。

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 私は陶磁器が好きなので、料理以上に皿が気に入った。うちにもあれば、食事の楽しみが倍増しそうなデザインである。探してみようかな。
 それからパスタ。

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 こちらのお皿も九谷焼風で素敵だ。パスタの種類を聞いたのに、メモしなかったので忘れてしまった。自分の記憶力を過信しないように気をつけよう。
 締めくくりの肉料理。

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 常陸牛の薪焼きで、追加料金がかかるけれど、わずか200円なのでおススメしたい。
 こちらのお皿も、和風でしっとりとした味わいがあった。
 ここまではとてもよかった。デザートは賛否が分かれるところであろう。
「あちらからお好きなだけお取りください」
 ビュッフェなのだが、冷えていないところが惜しい。ケーキはともかく、ヨーグルトやカッサータはひんやりしていた方が美味しいに違いない。

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 だが、この写真を姉に送ったら、違う反応が返ってきた。
「アンタね、そんなにたくさん取って、何を文句言ってるの」
「…………」
 それもそうだ。
 甘いものが好きでない姉ならば、果物しか取らなかったかもしれない。
 皿からはみ出るほど欲張って、「ぬるい」とほざくとは何事かと呆れられてしまった。ははは。
 食後のコーヒーをいただき、だいぶリラックスできた。
 コーヒーカップも素敵だったのに、LINEに夢中になり、写真を撮り忘れた。
 粋なテーブルウェアと美味しい料理に会いに、また来ようかしら。

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2024年05月26日

新緑の時期には「ガレ展」

 以前は気になる美術館の展示に映画、舞台などをどん欲に巡っていたものだが、コロナ禍を機に家から出るのが億劫になった。
 一度楽をしてしまうと、なかなか元に戻れない。
 でも、この展示だけは見に行かねば、見ずに終わると後悔すると感じた。

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 ガレ展。
 「よしっ」と重い腰を上げ、渋谷区立松濤美術館目指してまっしぐらである。

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 入り口には猫型置物というタイトルの作品が鎮座していた。
 これだけは撮影可となっているので、「ラッキー!」とばかりにスマホを取り出した。

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 目がキラキラしていて、少女漫画に出られるような美猫である。
 エミール・ガレといえばガラスのランプを連想する。
 だが、これはガレの一部でしかない。彼にはいくつもの顔があり、アール・ヌーヴォーを代表するフランスのガラス工芸家であると同時に、陶器・家具のデザイナー、アートディレクター、工場経営者でもあったというから驚きだ。政治にも関心を持ち、世俗に疎い芸術家とは違ったのだろう。
 学業成績は優秀だし、家庭は裕福だしで、同じクラスにいたら対等に口を聞いていいものかどうか、戸惑う存在だったのかもしれない。
 しかし、ガレの作品からは、近づきがたい雰囲気は感じない。トンボをガラス製品に描きたくなる気持ちはわかるが、セミが多用されることを不思議に思った。羽化するとわずか7日で終わるという短い命をはかなんで、花瓶やランプに生かしておきたかったのだろうか。
 カエルの絵柄には「クスッ」と笑った。エッセイ仲間に、カエルの大嫌いな女性がいて、名前を言うことすらしたくないと話していた。彼女はカエルを「ヤツ」と呼んでいたから、私も思わず「ヤツだわ」と反応したのだ。彼女をこの展示に誘うのはやめよう。
 陶器や家具もあり、いったいガレはどこまで多才なのかと気が遠くなった。
 植物学者でもあっただけあって、ガレの描く葉や花は呼吸しているかのようだ。薄暗い明かりに照らされ、両手を大きく広げて背を伸ばしリラックスしている。目にした私も、森林浴のようなマイナスイオンを感じて、あわただしい毎日を忘れるひとときとなった。
 エレベーターホールにも、ガレの作品が掲示されており、とても落ち着く雰囲気だ。

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 渋谷区には意外と緑が多い。
 美術館を出て、鍋島松濤公園に向かうと、ガレの作品に負けまいとする植物が元気に生い茂っていた。
 5月は新緑の季節。
 思い切って外出したら、家では得られない爽やかさに出会えた。
 もっとあちこち出かけなくちゃ、と思わせてくれたガレに感謝である。
 
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2024年02月24日

『秘密 THE TOP SECRET』

 高校時代から清水玲子さんの作品を愛読している。
 チェルノブイリの原発事故と人魚を絡めたファンタジー『月の子』や、ドナーとして生まれた者たちの波乱万丈の人生を描く『輝夜姫』など、恋や愛だけでなく、社会問題を取り入れたストーリーに大いに魅了された。
 子育てと仕事の両立で忙しかった時期も過ぎ、久しぶりに清水さんの『秘密』を全巻揃えてみた。年末から年始にかけて時間を確保し、12巻全部を読むことができてうれしい。
「キレイ……」
 清水さんの漫画の何がよいかと問われれば、迷わず「絵」と答えるだろう。繊細でありながら安定感のあるタッチで描かれる人物は、サラサラの髪と吸い込まれるような瞳に肉感的な唇をしていて、男性も女性もみな美しい。ついでに衣装や背景、建物なども素敵だ。
 『秘密』の主役は薪 剛(まき つよし)という名の33歳・男性である。

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 誕生日は2027年1月28日となっているから、あと3年後らしい。飛び級により17歳で京都大学の博士課程を修了し、翌年には東京大学を首席で入学する。22歳で警察大学校に入学、29歳で警視正となった超エリートなのに、この美貌を兼ね備えているとはどういうことか。

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 芸能人かモデルのように整っており、うっとり見とれてしまうくらい魅力がある。
「ああ、いいなぁ、こんな顔に生まれたかった」と何度も何度も思ってしまう。
 知も美も才能も独り占め。こんなに不公平なことはないと憤りを感じる方もいるだろうが、家族運は薄く、気の許せる友達もいない孤独な星の下に生まれた点は不幸だ。

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 彼が所属している部署は、通称「第九」と呼ばれる科学警察研究所 法医第九研究室である。ここで行われる「MRI捜査」がタイトルに大きく関係している。この捜査は、死後一定時間内に取り出された「脳」をMRIスキャナーにかけ、一定の電気刺激を与えて脳を120%働かせ、死亡した犯人あるいは被害者の生前に見た目の記憶総てをスクリーンに再現し(現在最大5年前まで)その映像を基に被害者を殺した犯人・方法・場所等を捜査員が解明していく画期的な方法である。
 ただし、脳の持ち主のプライバシーは守られない。1巻のCASE1では、暗殺されたリード大統領の脳をスキャナーにかけた結果、好きになってはいけない相手に熱い視線を注いでいたことが判明してしまった。
 ひええ〜い!
 犯罪を取り扱う内容のため、正視に耐えない場面も登場する。死体や内臓が描かれていたり、亡霊がさ迷っていたりで、夜更けの暗い時間帯に読むことはお勧めしない。かといって、朝の爽やかな時間帯に読むのもどうかと思う。登場人物が悩み苦しむ場面では、読者も重い気分になるため、最後までページをめくれないということもありそうだ。
 それでも私は最後まで読み、ラストに安堵した。途中でやめると、薪をはじめとしてそれぞれのキャラクターが不幸なままで一時停止してしまうので、ヘビーだけれど、ぜひ12巻までたどり着いてほしい。
 美しくなくても、アタマ悪くても、毎日の生活に幸せを感じるならばよい人生なんじゃない?
 あらためて、人生の楽しみを考えてしまう作品であった。

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2024年01月08日

映画「PERFECT DAYS」のここが好き

 今、渋谷で働いている。
 映画「PERFECT DAYS」は役所広司さんがカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した作品だし、建築家やクリエイターがデザインした、渋谷のオシャレなトイレが舞台なので、ぜひ観たいと思っていた。
 でも、トイレの清掃員が主役? 地味じゃない?
 そんな疑問もある。一体どんな内容になるのか、興味を持って劇場に向かった。

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 観客は中高年が多い。若い層にはウケないテーマなのだろうか。
 清掃員は平山という名の男で、50代ぐらいだろうか。渋谷には住んでいない。スカイツリーの見える木造アパートに暮らしていて、自転車で浅草まで行かれる距離だ。
 朝はまだ暗いうちから目覚ましなしに起床し、髭を剃って作業着に着替え、ワンボックスカーで仕事に行く。おっと、出かける前のセレモニーとして、住宅前の自販機で缶コーヒーを買うことも、日常の大事なルーティンになっていたっけ。
 渋谷に着くと早速作業を始める。手を抜かず、利用者の邪魔をしないように気を遣い、頼りない相棒の尻拭いをしながら黙々と働く。仕事は苦ではない。むしろ楽しみのひとつのように、自分が満足いくまでピカピカに磨き上げる。
 お昼になると平山は公園に行く。ベンチに座り、牛乳パックを開けて、サンドイッチをつまむだけのささやかなランチをとる。スイーツはない。腰かけたベンチから空を見上げ、口端に笑みを浮かべながら、頭上の木のゆらめきを目で追っていく。風で葉が煽られ、木漏れ日がうつろう場面は、木が語り掛けているかのようだ。
 彼がポケットから取り出したのはフィルムカメラ。木を、葉を、撮影するのが日課となっている。フィルムを使い切ったら現像に出す。
「アレッ、これって昭和の時代だったっけ?」
 そんな錯覚を起こすが、平山の相棒や相棒の友人はスマホを持っている。やはり令和が舞台なのだ。カセットテープを高額で買い取る店もあり、レトロな文化が見直されていることに新鮮さを感じた。
 仕事が終わると、平山は家に帰る。銭湯で汗と汚れを落とし、夕食は浅草の定食屋でとる。無口な男ではあるが、店員さんや常連さんとの交流はあり、居心地よさそうだ。食事を終えて家に戻ると、布団の中で本を読む。音楽は好きだがテレビはなく、ネットサーフィンできる環境もなく、静かに夜が更けていく。
「光熱費がかからなくていいよね」
 いや、光熱費だけではない。人付き合いや自己表現、自己啓発等に手間暇かけて、ことあるごとにストレスを感じる現代人の根本を変える生活が、平山の毎日なのではないだろうか。
 一見、不便に見えるけれど、解放感あふれる暮らしが平山のPERFECT DAYなのかもしれない。
 ちなみに、パンフレットの表紙には、いくつもの「PERFECT DAY」が並んでいる。少しかすれた文字や重なって見えない文字もあるし、間隔も一定ではない。これは、その日その日によって、変化のある毎日を表していて、すべてをまとめて複数形のDAYSとしているのであろう。上手い!

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 石川さゆりさん、三浦友和さん、研ナオコさんといった大物も登場し、スクリーンに豪華な彩が添えられた。不思議なもので、彼らがスクリーンに映されると、見るとはなしに視線が吸い寄せられてしまう。特に三浦友和さんとの影踏みはよかった。
 映画が終わり、エンドロールが流れているときも、観客は誰も席を立たなかった。現代人がなくした何かに、それぞれが思いを馳せていたからだろうか。
 本当によい映画だった。見てよかった。
 不満なのは、興行成績だ。こんなに素敵な作品なのに、9位とか10位などにランクインされ、多くの人に見てもらっていない。
 まだご覧になっていない方、どの作品を観ようか考え中の方にお勧めしたい。
 そうだ、渋谷で一緒に働いている同僚には、いの一番に伝えなきゃ。

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 「これはしたり〜笹木砂希〜」(エッセイ)
 「うつろひ 〜笹木砂希〜」(日記)
posted by 砂希納言 at 16:19| Comment(0) | エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする