●密教とは●
上野の東京国立博物館平成館で開催されている、「空海と密教美術展」を観てきた。
7月20日からの公開だから、館内はかなりの人で賑わっている。しかも、お経や三鈷杵などの小さな展示品も多いため、三重四重の人だかりとなり、飴に群がる蟻の気分が味わえる。もうちょっと、落ち着いてから出かけたほうがよいかもしれない。
タイトルを見て、「密教って何だろう」と疑問を持った。
調べてみると、仏教の一宗派だが、大日如来が自らの悟りの世界をそのまま説いた、けっして表面上では知りえない秘密の教えのことらしい。つまり、秘密仏教である。
国宝・重要文化財98.9%という、とてつもない数字もわかる気がした。

さらに興味をひかれたのが、「この夏、マンダラのパワーを浴びる。」とのキャッチフレーズだ。
なにやら、いいことがありそうな気がする。座布団を一枚、差し上げたい。

●第一章 空海_日本密教の祖●
お財布くらいしか持っていかなかったが、オペラグラスと鉛筆が必要である。なにしろ、曼荼羅などは細工が細かく、肉眼では十分に楽しめない。特に、最近、老眼が進んできた身には、小さな図柄に手こずってしまう。通と思われる人は、ちゃんと用意していたから感心した。
また、会場内では、鉛筆以外の筆記具が使えない。私はボールペンしか持って行かなかったから焦った。しかし、係員のお姉さんが、鉛筆を貸してくれたから助かる。
「またお経でしょ。もういいよ、飛ばそう」
中学生くらいの女の子がこんな会話を交わしていた。それくらい、第一章ではお経が多い。ここでの目玉は、国宝「聾瞽指帰(ろうこしいき)」であろう。空海直筆の草稿本で、力強さや意志の強さが伺える筆使いと称されている。
他のお経と比べると、空海の字はややクセ字である。模範的な文字ではないが、男性的な魅力を感じる。もっとも、丸文字なんてなかっただろうが……。
また、重要文化財「崔子玉座右銘断簡(さいしぎょくざゆうめいだんかん)」も印象的だ。これも空海筆といわれており、「短無説己之長」と書かれている。意味は「人の短を道(い)うこと無かれ、己の長を説くこと無かれ」である。
平安時代も今も、御仏の教えは心に響く。
●第二章 入唐求法●
ここでは、密教法具が印象的だ。五鈷鈴(ごこれい)、錫杖頭(しゃくじょうとう)などが興味深い。写真がなくて残念である。
期間限定の展示品もあった。
7/20〜7/30までは、純金製の「金念珠」が展示されていたが、私が見に行ったのは7月31日だった。残念ながら見逃した。
7/31〜8/11までは、重要文化財「三鈷杵(さんこしょ)」別名「飛行三鈷杵(ひぎょうさんこしょ)」が公開されている。空海が唐から帰国する際、密教を広めるのに相応しい地はどこかと、明州の港から三鈷杵を投げたら、日本まで飛んでいって、高野山の松の枝に引っ掛かったとの伝承が、名前の由来となったそうだ。
三鈷杵の力なのか、空海の力なのか。
摩訶不思議である。
●第三章 密教胎動●
国宝「五大力菩薩像」は、憤怒の形相をした恐ろしい菩薩が描かれている。額には第三の目があり、尋常ではない迫力で、こちらを睨みつける。近寄ったら焼け焦げそうだ。未就学児と思われる小さな子どもも、お父さんに抱かれて見ていたが、「怖いよぅ〜」と目を逸らしていた。気持ちはよくわかる。
国宝「両界曼荼羅図(高雄曼荼羅)」は黒ずんでしまい、よく見えない。9世紀のものだから仕方ないか。
重要文化財「両界曼荼羅図(血曼荼羅)」は、平清盛が大日如来の宝冠に、自らの頭の血を混ぜて彩色したとの言い伝えがあるそうだが、展示期間が合わずに見られなかった。
ああ、残念……。
国宝「細字金光明最勝王経」は、大変小さな字でありながら、均整が取れており、この上なく美しい出来栄えのお経である。「うわぁ〜、すごいわねぇ」と感嘆の声をあげる、オバちゃんたちに同意した。
オペラグラスどころか、バードウォッチング用の双眼鏡が必要かもしれない。
●第四章 法灯_受け継がれる空海の息吹●
正直いって、第一章から第三章までは、少々退屈だった。
だが、ここからは違う。
この展示の一番の見どころは仏像なので、ここからは俄然興が乗ってくる。
はじめに、重要文化財「大日如来坐像」が目に入る。曼荼羅の中心に位置するこの仏を、私はしげしげと観察した。
さらに国宝が続く。梵天像、地天像、帝釈天像、火天像、羅刹天像、水天像などがお目見えすると、心の邪気が追い払われるような清清しさを感じる。
重要文化財「千手観音菩薩立像」は、知名度が突出して高い菩薩像であろう。人ごみの中で、無謀にも私は腕の本数を数えてみた。
「いち、にい、さん、し……」
43本が確認できた。しかし、奇数というのも変だ。奥のほうは、重なって見えるから、正しい数ではないかもしれない。
国宝「薬師如来坐像」、国宝「阿弥陀如来および両脇侍像」なども素晴らしかったが、私が目を奪われたのは、重要文化財「如意輪観音菩薩坐像」である。
立膝に頬杖、柔和で優しげな顔を少々傾け、くつろいだ姿勢で、もの思いにふけっている様子が個性的でよい。

気に入ったので、クリアファイルを購入した。サマージャンボの宝くじでも入れておこうか?
●仏像曼荼羅●
ようやく、真打ちの登場である。「お待たせいたしました!」という声が聞こえそうなくらい、場内の期待が高まっている。
国宝「梵天坐像」は、ガチョウ4羽に支えられている。平成館までの途中の、看板にも使われていた。逆三角形の男性美が素敵だ。

国宝「帝釈天騎象像」は、象の上だ。これもまた、看板に登場している。

国宝「金剛法菩薩坐像」、国宝「金剛業菩薩坐像」、国宝「降三世明王立像」、国宝「大威徳明王騎牛像」なども立派で、何度も見たくなる。
私が一番心を引かれた仏像は、国宝「持国天立像」である。
これは、四天王のうちのひとつだが、邪鬼を踏みつけ恐ろしい顔で仁王立ちしている。病魔や貧乏神、浮気の虫などを追い払ってくれそうな表情だ。こちらも、クリアファイルをゲットした。

国宝「増長天立像」も恐ろしくていい。
さて、公式サイトでは、仏像曼荼羅コーナーの8仏像の人気投票をしている。
順位をつける必要はないが、人の好みもあるわけで、ちょっとのぞいてみたくなった。
私が投票したのは、「持国天立像」である。
結果を見ると、1位はダントツで「帝釈天騎象像」が選ばれている。2位が「降三世明王立像」、そして3位は、私が投票した「持国天立像」であった。(8月6日現在)
やったー!!
●おみやげ●
クリアファイルに加えて、食べるものが欲しくなった。何しろ、うちには、年中お腹をすかせた夫がいる。
「ふせん」なるものが目に入る。製造元を見ると、ちゃんと京都で作られている。迷わず、これを買った。

一般庶民とはかけ離れた、高貴な味である。
「クリアファイル買ってきたの? 見せて」
中3の娘が、おみやげ袋をのぞきこむ。彼女が釘付けになったのは、「増長天立像」のほうである。
「あっ、お母さんが足の下に〜」
私は即座に、「いないから!」と言い返す。
「キャラクターは?」
「何もないみたいだよ」
「なんだ。ミッキョー・マウスとか、作ればいいのにね」
「…………」
最近、体の調子がいい。
やはり、マンダラパワーのおかげだろうか。
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「
これはしたり〜笹木砂希〜」(エッセイ)
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うつろひ 〜笹木砂希〜」(日記)