●表参道うかい亭●
4月に行った「表参道うかい亭」で、秋の味覚を楽しもうという話になった。
春の記事は、
こちらをご覧いただきたい。
私はしがないマダム見習いだが、マダム歴20年の涼子さんと智恵子さんにお伴し、みっちり3時間研修をしてきた。
●伊勢海老のシトロネ●

フランス料理では、レモン果汁を加えることを「シトロネ」というらしい。
私は海老が得意ではないが、伊勢海老は例外だ。これなら喜んでちょうだいする。
「さきほどまで、生け簀で泳いでいたものです。プリッとした食感をお楽しみください」
こちらのウエイターは、皆トークが上手で笑顔がいい。
やや透明がかった身をスプーンですくうと、思いのほかゴロリとしていて大きかった。
「この半分くらいの大きさにしてほしいわね」
涼子さんが、右側の頬を膨らませてつぶやいた。
マダムは口が小さいものなのだ……。
私は左の頬が膨らんでいた。
●アンディニャック フォアグラのソテー●

オーダーの際、涼子さんは最初、「鮑とうかい特選牛コース」を選んでいた。
「フォアグラは苦手なの。鮑は外せないから、これがいいわ」
でも、私はフォアグラが好きだ。食欲に目がくらみ、年功序列を忘れて口走った。
「私はスペシャルコースがいいです」
メニューとにらめっこしていた智恵子マダムも、同調した。
「私もフォアグラ食べたい。スペシャルで」
ここでウエイターの出番だ。素早く涼子さんの後ろにやってくると、小声でささやいた。
「フォアグラを他のお料理に変えることもできますが、いかがでしょう?」
コースは揃えたほうが、何かと便利だ。涼子さんもそれは了承していた。
「そうね……。じゃあ、そうしていただこうかしら」
フォアグラは、相当こってりしているので、少量で十分だ。
うーん、ジューシー♪
隣では、涼子さんが「アイナメのポワレ」にナイフを入れていた。
コースで変えてもらいたい料理があるときは、遠慮せずに申し出るのがよいらしい。
ひとつ学習した。
●ビスク●

海老や蟹などを煮詰めて作る濃厚なスープの総称を「ビスク」というそうだ。
フォアグラのしつこさに配慮してか、次の一品は伊勢海老のビスクだった。
容器の蓋がおしゃれだったのだが、外して撮ると間抜けなフォトとなる。しかし、味は素晴らしかった。
「おいしーい!!」
3人揃って感嘆の声を上げた。
おととし、伊豆・弓ヶ浜で、早朝、伊勢海老の味噌汁を振舞う温泉旅館に泊まったことを思い出した。あれも美味だったのだ。
シトロネで使った伊勢海老の有効活用かしら?
主婦の合理性が、ふと頭をもたげた。
●鮑の岩塩蒸し●

4月にいただいたときと、若干違ったアレンジとなっていた。
ソースにわさびと青海苔が入っていて、クリーミーでありながら、磯の香りが漂い、ピリッと辛いアクセントがついている。
もちろん、鮑は生きたものを蒸し、新鮮で柔らかい仕上がりだ。
鮑が大好きな夫を、一度は連れてきてあげようと思いつつ、自分ばかりが2度来ている。私は思わず苦笑した。
ソースはパンですくい取ったが、全部は無理だ。
「このソース、すごく美味しい」
涼子さんはとても気に入ったらしく、フォークを動かしていたが、なかなか取れない。
気の利くウエイターがフィッシュナイフを3本持ってきて、「どうぞお使いください」と差し出した。
憎い心遣いである。
「鮑の肝をスープ仕立てにしました。お熱いので、お気をつけてどうぞ」

おまけの一品に、得した気分となった。
●うかい特選 牛フィレステーキ●

「焼き方はいかがいたしましょう?」
マダム2人は口を揃えて「ミディアムレア」と言った。
しかし、私はもう少し焼いたほうが好みなので、「ミディアム」と逆らった。
美味しいけれど、脂がちょっとキツい。
それだけでなく、鉄板焼きは室温が上がって暑い。私は暑さで頬が赤くなってきた。でも、ニットワンピースだから脱ぐこともできず、ひたすら我慢するしかない。しかも、ハイネックだったりする……。
「暑いわね」
涼子さんも、ツーピースのジャケットを脱ぎ始めた。すかさずウエイターがやってきて、ジャケットを預かっていった。
「私は脱げないわ。この下、ノースリーブなんだもの」
智恵子さんは困惑気味だ。しかし、店内は、真夏の装いでもいいくらいの暑さである。半袖で来るのが正解かもしれない。
やはり、マダムは顔を赤らめてはいけないのだ。
●お食事●

「ガーリックライスと冷たい素麺、スープリゾットからお一つお選びください」
智恵子さんは「ガーリックライス」と元気に言った。
私と涼子さんは、そろそろ胃袋が悲鳴をあげそうだったので、スープリゾットにした。だが、一番カロリーが低いのは素麺らしい。
目の前でガーリックライスを焼かれると、にんにくと醤油のいい香りが漂い、満腹にもかかわらず食欲が刺激される。
「私もガーリックライスにすればよかったかしら……」
涼子さんがボソッと言った。私も同感だった。
でも、スープリゾットもあっさりしていてよかった。
●デザート●

実は、予約の際、涼子さんが「ミルフィーユが楽しみです」と伝えたら、「今、ミルフィーユはメニューにありません。でも、特別にお作りすることはできます」と返されたそうだ。
キャラメルナッツのミルフィーユを用意してもらう手はずとなっていた。つまり、選択の余地がなかったのだ。
「あのサクサク感をぜひ味わって! 美味しいわよ」
そこまで勧められては、いただくしかない。
デザートラウンジに移動すると、部屋の中がひんやりしていた。
ミルフィーユに添えられたアイスクリームを先に食べる。
ミルフィーユはそれからだ。ナイフがズブズブと、たやすくパイ皮に沈んでいった。これは、そんじょそこらのケーキ屋では味わえない軽さだろう。クリームも控えめで、重い食事のあとに相応しいデザートであった。
いいと感じたものを、自信を持って人に勧めるのがマダムの資質なのかもしれない。
さきほど、ジャケットを預けた涼子さんがふるえていた。
「ちょっと寒いわ……」
ちなみに、涼子さんは4月にミルフィーユを食べたからと、今回はモンブランを注文した。こちらも栗そのものといった、旬の味だったらしい。

さて、私のマダム度は上がっただろうか?
マダム見習いから、マダム6級くらいになれたような気がする。
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「
これはしたり〜笹木砂希〜」(エッセイ)
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うつろひ 〜笹木砂希〜」(日記)